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大阪地方裁判所 昭和40年(行ク)1号 決定 1965年2月08日

申立人 茨木市役所職員組合

相手方 茨木市長

主文

右当事者間の大阪地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第八号行政処分取消請求事件の本案判決が確定するに至るまで相手方は昭和三九年一二月一五日茨達第一三一号を以て為した申立人に対する別紙目録記載の組合事務所使用許可取消処分に基ずく戒告その他の行政代執行法による手続の続行を停止する。

(裁判官 三谷武司 山口定男 松尾政行)

物件目録

茨木市大字上中条壱〇四番地の壱

一、木造スレート弐階建庁舎(茨木市役所分室)の中建坪約百四拾坪のうち

弐階南西角の一室、茨木市役所職員組合室 拾坪

(別紙図面赤斜線部分)

(別紙図面省略)

申立の趣旨および理由

申立の趣旨

申立人相手方間の大阪地方裁判所昭和四〇年(行ウ)第八号行政処分取消請求事件の本案判決が確定するに至るまで、相手方が申立人に対し昭和四〇年一月二七日になした別紙物件目録記載の申立人組合事務所内存置物件搬出の戒告処分の効力を停止し、相手方の申立人組合事務所に対する行政代執行法にもとずく手続の続行を停止するとの御裁判を求める。

申立の理由

一、相手方は申立人に対し、申立人が現に占有使用中の別紙目録記載の組合事務所(以下組合事務所という)に関し、昭和三九年一二月十五日に使用許可を取り消したとし、昭和四〇年一月二十七日に至つて、同年二月二日午後九時迄に組合事務所内存置物件を他に搬出するようにとの行政代執行法第三条第一項による戒告処分をなして来た。

しかし乍ら、相手方のなした右の組合事務所使用許可取消処分も、また、これにつづく戒告処分も違法なもので、取消さるべきものであるので、別紙のとおり、申立人は本日御庁に対し、前記各行政処分の取消しを求める訴を提起した。

しかし乍ら、申立人の戒告処分の効力を停止し、申立人が今後続行することの明らかな行政代執行法に基く執行手続の続行を一切停止しなければ、申立人は現実に著るしい損害を受けるばかりか、将来前記本訴に於て勝訴判決を得ても到底回復し難い重大な損害を蒙ることが明白である。

よつて以下の理由にもとずき、本件執行停止の申立をする。

二、組合事務所使用許可取消処分並びに戒告処分の違法性については、別紙添附行政処分取消請求訴状の請求原因各項に於て申立人が主張するとおりであるので、これをここに援用し、更に以下に補論する。

イ、申立人組合は、昭和二三年二月に、茨木市役所に勤務する者を以て組織され(甲第一号証規約第五条第一項)、以来今日迄、職員の労働条件の向上等のために積極的に活動し、同時に、大阪府下衛星都市の職員組合全体、すなわち、いわゆる衛都連(大阪府衛星都市職員組合連合会)の中でも先進的役割をはたして活動して来たものである。

昭和三九年五月二十九日の大会で、原田保が申立人組合の執行委員長、塩山博之が書記長に選出され、現在それぞれその地位にある。(甲第二号証)

ロ、ところが、昭和三八年一月に至り、相手方坂井市長は、申立人組合の活溌な組合活動を嫌悪し、これを抑圧することを目的としてこれを選挙公約にまでかかげて市長に立候補し(甲第三号証茨木市長選挙公報)、かろうじてこれに当選して以来、次々に申立人組合の諸活動に対する抑圧を強化し、申立人組合を分裂させて来た。

この不当な抑圧政策の結果、昭和三七年には組合員数五八〇名をようした申立人組合は現在組合員数三五〇名に減じ、他に第二組合(茨木市従業員組合)第三組合(茨木市職員組合)第四組合(茨木市水道事業所職員組合)が出来ている有様である。(甲第四号証報告書第一項)

そして、相手方の組合弾圧がいかに烈しいものであるかという事実は、十名余にのぼる申立人組合の活動家が相手方の市長就任以来免職減給等の処分を相ついで受け、大阪地方裁判所や労働委員会にすでに数件の訴えが提起されていることによつても明らかである(甲第五号証茨木市職にたいする弾圧事件一覧表)。

また相手方は、申立人の職場における日常組合活動をも不当に抑圧しており、申立人が職場連絡等に使用している放送設備を実力で撤去しようとして来たので、申立人は、大阪地方裁判所に対し妨害排除の仮処分命令申請(昭和三八年(ヨ)第二〇一〇号仮処分事件)をなし、昭和三八年八月八日妨害排除の決定を得てこれを確保せざるを得なかつた。(甲第六号証仮処分決定写し)

また一方、従前は使用を許されていた組合の職場討議や集会のための庁舎利用をも、相手方はこれを許可しない措置をとり、庁舎管理権を濫用して、申立人の職場における日常組合活動に対する抑圧を強めている。(甲第七号証の一申立人組合より相手方宛の庁舎使用についてと題する書面、同第七号証の二茨木市職速報)

更におどろくべきことには、相手方は、申立人の組合弾圧をなすためには、暴力団をやといいれるという暴挙まで敢てなしたのである。(甲第八号証の一乃至四の各新聞記事)

ハ、相手方の申立人に対する組合事務所の明渡しと移転の要求は、前述のような相手方の申立人に対する組合活動に対する抑圧政策の一環をなすものに外ならない。

云う迄もなく組合事務所は、日常組合活動の本拠であつて、そのための庁舎の利用は、一応管理者の許可にかかるものとは云えそれの使用占有は長期間継続してなされるものであり、その本質は、労働者の団結権保障、組合活動の利益保護を目的とする使用貸借契約類似の関係をもつものと云い得る。

従つて、組合活動上の利益を無視して、申立人組合の承諾なく、一方的に使用許可処分を取消し他への移転を強要することは、申立人組合の組合活動上の利益と権利を侵害するものである。

ともあれ、憲法上の具体的権利として職員組合を結成し組合員の利益のために諸種の団結活動をなす権利が法認され保障されている限り、そのための組合事務所の使用も、団結権保障の一環として擁護さるべきものであること明白であつて、庁舎管理上の具体的且明白な公益上の必要性が存しない限り、いつたん長期間にわたつて許してきた組合事務所の使用を一方的に取消すなどのことは団結権を侵害し、庁舎管理権の濫用となるものである。

相手方は、前述のとおり、昭和三九年十二月十五日に突如申立人に対し、現組合事務所の明渡しと他への移転を一方的に要求して来た。(甲第九号証組合事務所移転通告について)

それは申立人に対し、昭和三九年十二月二十五日限り組合事務所の明渡しを要求するものであつたが、相手方の従前の強硬且つ不当な組合弾圧の状況にてらし実力で組合事務所の閉鎖等の妨害行為に出るおそれがあつたので、申立人は止むなく御庁に対し、組合事務所占有使用妨害排除の仮処分命令を申請し、同事件(御庁昭和三九年(ヨ)第四六三四号事件)につき、同年十二月二十五日第一回の審訊が開らかれ、その際、担当の中原裁判官から相手方に対し、申立人組合が移転を承諾せず組合事務所の占有使用を続ける場合、相手方は実力で使用を妨害阻止するのか否かをたずねられたことに対し、相手方代理人は、その場での即答をさけ、相手方すなわち坂井市長と協議した上で答弁したいと述べたため、審訊は続行されることとなつた。

そして、昭和四〇年一月十八日第二回審訊期日に於て、相手方代理人中山弁護士から、前記の問に対し、相手方は、組合事務所明渡しの本訴請求による判決(債務名義)によるか行政代執行法の手続にするか検討するがいずれにしても右のような法的根拠ある手続によるほかは一切の実力による方法はとらない旨明らかにしたので、結局仮処分の必要性がないこととなり、申立人は右の旨を確認して同日前記仮処分申請取下げ手続をなした。

ニ、而して、その後相手方は、昭和四〇年一月二七日に至り、申立人に対し、同年二月二日午後九時までに現在の組合事務所内の存置物品を搬出せよと戒告処分をなし、行政代執行法の手続によつて申立人組合事務所の明渡しを強行せんとして来たのである。(甲第十号証組合事務所の使用許可の取消し並びに存置物品等の搬出の戒告について)

しかし乍ら、本件組合事務所の明渡しについて行政代執行法の手続によることは以下に述べるとおり許されるものでなく、前記戒告処分は違法のものであつて、取消されるべきこと明らかである。

すなわち、

(1) わが国に於て、戦後、民主的行政制度が確立されるなかで、行政上のいわゆる直接強制は一般に許されないこととなり、行政代執行法が制定せられて、行政上の義務の強制履行確保はわずかにこれによる外ないこととなつたのであるが、民主的行政の原則のもとで国民の諸権利と利益の保障の観点からみても、これの適用については、その範囲及び要件が厳格に解されねばならないこと云う迄もない。

とりわけ、公務員の労働関係は、行政庁と一般国民に対する外部的支配関係と異り行政行為の優位性がそのまゝつらぬかれないものであり、いわば、行政内部における当事者の対等性を原則とするべきものであるから、一般行政行為の優位性を、労働関係の場にそのままもちこむことが出来ない筈である。

このことは、地方公務員法自体が、憲法第二八条にもとずき、その第五二条以下の規定によつて、職員団体(労働組合)を結成し、当局と交渉し書面による協定を結ぶ等、一般公務員が当局と出来るだけ対等の立場に立つて勤務条件の向上等のため組合活動をなす権利を保障していることによつて明白である。

組合事務所の占有使用関係も、本質的には内部的労働関係における対等の当事者的権利義務の関係であつて、そもそも行政権力の絶対的優位性確保を目的とする行政代執行法を適用すべからざるその適用範囲外のことにぞくするものと云わねばならない筈である。

(2) 更にまた、相手方の本件組合事務所の明渡し要求については、地方自治法にいう行政財産の公用の必要による単なる使用許可の取消しという以外に、具体的強制的に明渡しを命じうる直接的な法律上の根拠規定はないものであるし、また、他に組合事務所の明渡しの民事訴訟を提起する途がある以上「他の手段によつてその履行を確保することが困難である」とは到底云い得ず、そして、「その不履行を放置することが著るしく公益に反する」というような重大且緊急の公益侵害のおそれなど勿論存するいわれはない。

右のとおりで、本件戒告処分は、行政代執行法に定める要件にも明らかに該当するものではない。

三、以上に詳述したとおりで、相手方の組合事務所使用許可取消処分並びに戒告処分はいずれも取消さるべきこと明白であるけれども、本訴の確定判決をまたずして、相手方が行政代執行の手続を続行し、強制的に組合事務所の明渡しを行なうならば、申立人は回復し難い損害を受けるものである。

申立人は、現在の組合事務所に於て、常勤職員をおく外、屡々会議をもち活溌に組合活動を行なつている。

その現状に照らせば、現在でも狭いくらいであるのに、これの使用を奪われ、相手方の云う場所へ移転するとなれば、更に狭くなつて活動が阻害されるばかりか、壁一つへだてゝ、申立人組合に対抗し不当に申立人組合を中傷非難して敵対する第二、第三、第四組合と事実上同居せしめられる等の外、裏は警察署に直接隣接して、会議状況その他漏えいのおそれさえあるなど、自由な組合活動をすすめる上で著るしい支障を蒙ることとなるものである。(甲第四号証報告書、同第十一号証報告書、甲第十二号証の一乃至三写真三葉、第十三号証の一乃至六第二組合の声明書、同速報等)

申立人組合は、相手方の相次ぐ不当な組合活動抑圧と闘つて困難ななかで労働組合の団結をまもり、組合員の利益と地位の向上改善に努力している。(甲第十四号証住民と自治のうち、分裂と弾圧の嵐の中でと題する塩山博之の報告)

その日常組合活動の本拠を奪われるならば、重大なる支障、回復し難い損害を蒙ることは云う迄もない。

相手方が、十数年にわたり組合事務所として自ら使用許諾して来た組合事務所を、一挙に行政代執行法に藉口し、一方的に権力によつてこれを強硬に剥奪しようとすることが、申立人の権利を不当に侵害する許されざる暴挙であることは明らかである。

これに対しては、当然、本件申立の趣旨のとおり執行停止の御裁判あらんことを切望しこの申立をする次第である。

(別紙訴状の請求の原因)

一、原告組合は昭和二三年二月に結成され茨木市役所に勤務する者を以て組織され、現在組合員数は三五〇名である。

二、原告組合は、組合結成以来、茨木市所有の茨木市本庁舎の一部を組合事務所として借用占有使用し、ここを組合の日常活動の本拠として来た。

現在の組合事務所は、別紙物件目録並びに添附図面赤斜線のとおりであるが、これは昭和三十年の茨木市庁舎移転に伴い、本庁舎の一部から、ここに移転して来たもので以後現在に至つているものである。

三、原告組合の右組合事務所は、被告から、期限の定めその他のなんらの条件を附すことなく、日常組合活動の遂行のために借り受けているもので、現在の組合事務所は前記移転に伴い、被告の承諾のもとに原告組合が金十三万円を支出して改造したものである。

四、ところが、被告は、原告組合に対し、昭和三十九年十二月十五日に至り、突如、一方的に同月二十五日を期限として、現在の組合事務所を明渡した上、他に移転するよう通告して来た。

五、しかし乍ら、右の一方的な組合事務所の使用許可の取消し処分は違法であり取消さるべきである。原告組合が現在の組合事務所を十年近く占有使用して来たことは、勿論前述のように被告から使用許可をうけたことによるものであるが、その法律関係の本質は、原告組合の日常の団結活動を保障するためのものであることは云うまでもなく、その意味でまた、労働組合が組合事務所を借り受けた上、組合業務のためにこれを占有使用することは、憲法第二八条にいう団結権保障の結果に外ならず、組合活動の権利として把握さるべきものであること云う迄もない。

従つて、被告は、原告組合の組合活動上の支障の有無その他につき組合と十分協議し組合の同意を得ることなくしては、一方的に現組合事務所の明渡し、他への移転を強行することは出来ない筈である。若しそのようなことを強行するとすれば、原告組合の団結権―日常組合活動の権利をも侵害することとなるものである。

而して現実に、原告組合としては、被告が主張する現在の事務所を明渡すことは、組合事務所が狭くなつて、会議等の日常活動に直接支障を生ずるばかりか、場所的状況として、被告坂井市長らの組合分裂等の結果である第二、第三、第四組合と同居し、同時にまた、茨木警察署にすぐ隣接する等、会議並びに活動状況が漏洩察知されるおそれがある点など、日常活動に重大な支障が生ずるものである。被告人は、昭和三十八年一月以来原告組合との団体交渉を拒否し続け相ついで組合活動家に対する制裁処分を強行するなど原告組合に対する不当な抑圧策を強行し続けている。

原告組合の都合や活動状況をなんら配慮することなく、十二月十五日通告して早急に二十五日を期限として明渡しを求めるという理不尽な一方的強圧的態度も、右の不当な組合抑圧策のあらわれに外ならない。

六、以上のとおりで、組合事務所の占有使用関係は、被告の許可によつてなされているものとはいえ、いつたんこれが許可されて組合がこれを正当に占有使用し、ここを日常組合活動の本拠として活動し団結権の保障を得ている限り、組合の同意なくして一方的にその占有権を剥奪しようとしてなした被告の使用許可取消処分は、被告の庁舎管理権の逸脱乃至濫用にわたる違法な処分であり、ひいては憲法第二十八条の団結権保障の規定にも違反するものと云わねばならない。

七、原告組合は昭和三十九年十二月二五日の明渡期限が経過すれば、被告茨木市長が従来からとつてきた組合抑圧強行策からみても組合事務所の強行閉鎖、実力による占有使用の妨害を伴うことが明らかであると考え、昭和三十九年十二月二十二日御庁に対し組合事務所の占有使用の妨害禁止の仮処分申請をなした。

しかし、その第二回審訊期間である昭和四十年一月十八日に被告茨木市長の訴訟代理人から実力排除行為は一切しないとの回答があつたので、右申請を一応取下げたのである。

八、ところが、被告茨木市長は昭和四十年一月二十七日、原告組合に対し昭和四十年二月二日午後九時までに組合事務所内存置物件を他に搬出するよう行政代執行法第三条第一項による戒告処分を行なつて来た。

しかし乍ら右戒告処分は行政代執行法第二条にいう「他の手段によつてその履行を確保することが困難であり且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」なる要件を具備しないものであることは明白であるから、違法であり取消されるべきである。けだし、被告としては民事訴訟法による組合事務所明渡しの本訴を提起する等救済を求めることが他の方法により可能であり、かつ、それをもつて足るからであるし、又、今日まで、十年近くの年月原告組合に貸与していたものが、突如その明渡しを要求しその不履行を放置することが著しく公に反するような公益性が、原告の本件組合事務所使用に関しては生ずるはずが全然ないからである。

よつて、本訴に及んだ次第である。

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